時がたち…
のり
俺の体が小さくなってからいったい何年たったんだろう。
蘭は、俺以外の男と結婚した。そして、毛利探偵事務所を出て行った。今はおっちゃんの面倒を週に1回くらいみに来るていどだ。
そして俺はというと、探偵事務所を出て前の俺の家で暮らしている。新しい学校、新しい生活、新しい仲間。それなりになれた。勉強ができて、サッカーもできる俺は学校ではちょっとした有名人らしい。何人もの女が俺に告白してきた。けど、俺は…
蘭以外愛さない…
蘭以外愛せないんだ…
もうアイツは俺のこと忘れたんだろうか…?
「あら、コナン君じゃない!」
夕暮れの商店街で、蘭に久しぶりに会った。どうやら晩御飯の買い物に来ていたらしい。俺以外の男に作るための…
「あたし日曜日は事務所に戻ってきてるんだから、コナン君も顔出してくれればいいのに。ご飯くらい作ってあげるよ?」
「ごめん、部活が忙しくてさ…」
会えるわけなかった。なにもかも奪ってしまいたくなる…
「そうだ、ちょっとお茶していこ!久しぶりなんだし。」
蘭は喫茶店を指差して言った。
「あ…いいよ。」
「コナン君はアイスティーでいいよね?あのすみません、アイスティーを2つ。」
「ありがとう、蘭ねえちゃん。」
久しぶりに会った蘭は、やっぱりキレイだ。俺はまともに見れなかった。
「なんかコナン君元気ないね、どうしたの?あたしでよければ、相談にのるよ?」
もう限界だ。俺は思い切って蘭に聞いてみた。
「蘭ねえちゃんは、もう新一兄ちゃんのこと忘れちゃったの?」
蘭が笑いながら言った。
「当たり前じゃない。あんないつ帰ってくるか分かんない推理オタクのことなんかとっくに忘れちゃったわよ。」
その瞬間、目の前が真っ暗になった。
オレハコレカラナンノタメニイキレバイインダ…?
「なぁんてね。忘れるわけないじゃない。」
その一言ではっとした。慌てて蘭のほうを見た。蘭の瞳にはうっすら涙が…
「忘れるわけないよ、推理オタクで、キザで、でもかっこよくて…。いつでもあたしの王子さまだった…。
でもあの日、新一のあの一言で決心したんだ。
《俺のことなんか忘れて、お前は幸せになれ。》
って。だから結婚したんだ。」
そうだ、たしかに俺はそう言った。俺の帰りをまって、涙を流す蘭を見たくなかったから。蘭が幸せになればいいと思ったから。
けど俺はそんなに大人じゃなかった。蘭を誰にもわたしたくない。俺だけのものにしたい。
けれどそう思っても遅いんだ。もう蘭は他のやつのもの…
会話がとぎれた。なにか言おうと思っても言葉がでない。
蘭がアイスティーをコクッっと一飲みして、話だした。
「コナン君だけに教えちゃう。あたしたちね……来月に離婚するんだ。」
「えっ!?どうして…?」
「ほら、あたしたち子供いないでしょ。彼はほしがってるけど…いざとなったら無理なんだ…アイツの顔がうかんできちゃて。そのことでもめちゃって、だから離婚するんだ…。」
「蘭ねえちゃん…ホントにいいの?」
「いいの…やっぱりあたしは新一以外愛せない……
もっとはやく気がついてればよかったのに…」
そうか俺たちは何年も前から…どうして気がつかなかったんだろうか…
すぎた時間はもどらない。そんなの解かっている。
俺はどうすればいい…?
なぁ蘭、俺はお前を手に入れたい。幸せにしたい。
夕焼け空は、まるで泣いているようだった。
虫の音が聞こえてくる季節、蘭は離婚した。俺以外の誰にもつげず。蘭のことを心配した服部、和葉、園子、そして俺は、蘭のもとへかけつけた。
「もう蘭ちゃん!どうしてウチらに相談してくれんかったん?ウチらも同じ主婦なんやけ、相談くらいのろうおもっとったんにぃ。」
「そうよぉ、蘭。あたしたち友達じゃない!」
「ゴメン、もう決めちゃってたから…ありがとうわざわざきてもらっちゃって。」
そう、園子は京極さんと。和葉は服部と結婚した。そんな2人を笑顔で祝福していた蘭。けどその笑顔の下では泣いていた。それがわかったから、あの日サヨナラを言ったんだった。
「もうここはパァッっと女同士で飲みにいこうや!!やなことみんな忘れてしまおうやぁ!」
と言う和葉の提案で、3人は出かけていった。
残ったのは俺と服部。
「で、どないするんやぁ?」
「あぁ、飯なら外に食いにいこうぜ。」
「アホ!お前はどうするんかきいとるんやんけぇ!」
びっくりした。久しぶりに聞く服部の激しい口調。
「どうするっつったって…。俺だって考えたさ。蘭をおれのものにしてぇ。けど、いまの俺に何ができる?」
独占欲。自分でもいつからこんなに欲深い人間になったのか…。
自分が自分でなくなりそうだ。
蘭にすべてを伝え、蘭を俺だけのものにしたい。
けれど、妙に落ち着いているもう一人の自分が自分の中にいて、こう俺にささやくんだ。
『今のお前はただの中学生。そんなやつに蘭を幸せにしてやれる力なんてないんだ。』
と…。
「やっぱお前は推理はピカイチやけど、こういうことに関しては、ただのアホやなぁ。」
その人事のような発言に俺は切れた。
「っんだとっ!!てめぇっっっ!!!」
おもわず服部の胸ぐらをつかんだ。が……
ガツッッッッ……!!!
何が起きたのかわけがわからず、俺は座りこんで頬に手を当ててみた。頬はひどくずきずきする。
「お前、ええがげんにせぇや。あの姉ちゃんはお前んことが忘れきれんで離婚したんやろ!?なら、お前から動かんと、ここでウジウジしよってどうかなるんか!?!?」
「服部………。」
「あんなぁ、恋愛は推理とちゃうんや。トリックなんかない、証拠なんていらん。そういうもんやないんか?
推理んときはポーカーフェイスでも、こういうときくらい感情にまかせて動いてえぇんやないんか?」
「服部、俺は……。」
「アホ!こんな恥ずかしいことなんべんもいわせんなや。はよう姉ちゃんとこに行ってやれ!!!」
『こういうときくらい感情にまかせて動いてえぇんやないんか?』
その一言ではっとした。
そうだ、俺は蘭以外は愛せないんだ。
「……ありがとよ、服部。聞いたぜコレ。」
俺は頬を指差しながら言った。
「あはは!まぁ気にすんなや!!」
「じゃあ行ってくっかな。」
「おっ、やっとその気になったんかいな。
「ああ、俺にはアイツ以外いないんだ。」
俺は蘭たちのもとへ向かった……。
もうすぐ夏になる。そんなとき私は離婚した。園子や和葉ちゃんがかけつけてくれたのは、すごく嬉しかった。
「パァッっと飲もう!」
という和葉ちゃんの提案で、あたしたちは駅前の居酒屋へやって来た。
「それにしてもホンマおどろいたぁ!蘭ちゃんが離婚するん聞いた時はぁ。」
「そうそう、あたらしいダンナとラブラブでやってると思ったのに。」
園子と和葉ちゃんはあたしの突然の離婚にとても驚いていた。まぁ無理もないか。
必死に幸せをよそおっていたんだもん。
それがアイツのためなんだ。って自分に言い聞かせて。
「それにしても、どうして離婚なんかしたの?なんか喧嘩したの?」
と園子が聞いてきた。
言えるわけなかった。ホントのことなんて。
『あたしは、新一がわすれられなかった』
「うぅん、ほら。価値観のちがいってやつよ!!気が合わなかったのよ。」
あたしは無理して笑顔をつくって言った。でもそんなあたしに和葉ちゃんは気がついたらしい。
「もしかして、蘭ちゃん。工藤くんのこと忘れられんかったんとちがうん?」
「まさかぁ、ちがうよ。アイツとはさっぱりサヨナラしたんだから。」
嘘をつきとをすためにまた嘘をつく。あたしっていつからこんな醜い人間になったんだろう?
心が泣いている。
「なぁ、蘭ちゃん。ウチラの前で無理せんでいいんよ。
蘭ちゃんのホントの気持ちはどうなん?」
和葉ちゃんの真剣な眼差し。胸がつらぬかれたようだった。
あたしのホントの気持ち……
「あたし……ズット新一のこと忘れられなかった…。
別の人と幸せになろうって思った。
でもダメたったの…。」
あたしは、新一以外愛せない……
「よっしゃ!コレで決まりや!!」
和葉ちゃんが嬉しそうに言った。あたしは何が何だかわからず
「え…?」
と言った。
「あんなぁ、平次に頼まれたんよ!蘭ちゃんの気持ちを聞きだしてって。」
「なっ、なんで…!?」
「おれは工藤と話ししてくるゆうて。蘭ちゃんがまだ工藤くんのこと思ってんなら、工藤くんの家に来るように伝えろっていわれたんよ!」
まだなにがなんだか解からない。新一の家に行く……?
「あぁ、もう。とにかく、工藤君の家に行ったらなんもかんも解かるっちゅうことや!!」
ということは、新一が戻ってくるってことなの…?
なんだか信じられない。こんなタイミングなんて。
「あっ、会えるのね?新一に…!!」
「そうやと思うよ。あたしは平次から何にも聞かされてないんやけど、平次がそうしてくれるやろうから♪」
新一に会えるんだ…!!信じられない……!!
もう会えないと思ってた。サヨナラを言われた日から。
でも、ようやく解かったの。
あたしは、新一以外の人を愛せないってことを……
|
|