stray cat

イヨ



          


          
          「・・・もう、何だよ。降水確率0%って!」
          
          恨めしげに空を見つめる
          天気は、それこそ見事な―――・・・、雨
          
          「天気予報じゃ、晴れだって言ってたのに・・・」
          
          そんなことを言うからには
          勿論、自分は傘を持っていなくて
          
          走って帰ろうかな、と思った
          雨水もはねるし、気は進まないけれど
          雨は容赦なく降って来るし、仕方ない
          急いで、走って帰る―――と、
          
          ふと、前方から『何か』の鳴き声が聞こえた
          視界の悪い中、目を凝らすと、その音源は・・・
          段ボール箱の中に入っている・・・猫
          
          少し、近づいて見下ろす
          ・・・黒猫。餌は、入っていない
          首のところには、鈴がついていた
          
          きっと、心無い人間が捨てたのだろう
          人間慣れしているのか、こちらが見ていても
          全く、物怖じしていない様子だった
          
          そっと、手を伸ばしてみると
          人懐こそうに、こちらに擦り寄ってきた
          その姿が、何故か、自分に重なる
          
          「・・・お前は、僕と同じだね・・・」
          
          「ミャ?」
          
          「愛想だけは人一倍良くて・・・
          でも薄情で、他人のことには、本当は無関心」
          
          「ミィ・・・」
          
          ふと・・・
          この猫を、連れて帰りたい、と思った
          
          日頃から優等生をやっているし
          きっと、一晩くらいは何とかなるだろう
          
          そう思っていると
          不意に、雨が止んだ
          ―――・・・いや、違う
          誰かが、傘を差してくれている
          
          「ミャー、」
          
          猫が、するりと足元を抜けた
          つられて、自分も後方を振り返る
          
          一瞬、目が合った
          
          「・・・どうしたの?」
          
          「――――――!」
          
          振り返ると、そこには
          こちらにビニール傘を傾けながら
          傍らで佇む、自分と同じ位の年恰好の少年の姿があっ た
          
          「ニャー」
          
          「わっ!?」
          
          先程まで、段ボールの中にいた猫が
          目の前にいる、彼にまとわりついた
          
          「あー・・・よしよし、元気にしてた?」
          
          「ミィ♪」
          
          一瞬、驚いたようだったが
          手馴れた様子で、すぐに猫の頭を撫でていた
          ・・・自分が濡れることなど、まるで意に介さず
          
          そして、気付いた
          彼のことを、自分は知っている
          確か、同じクラスで、バスケ部の―――・・・
          
          すると、突然、何の前触れもなく
          彼が視線を上げ、こちらを見た
          
          「君、・・・もしかして、このコの飼い主?」
          
          「えっ・・・違うよ。君は違うの?」
          
          まるで見当違いのことを指摘され
          思わず、こちらもむきになって返す
          けれど、彼は困ったように、こう言った
          
          「う〜ん・・・捨てられてるみたいだから
          毎日、様子見に行って、隙を見て餌持っていったり
          してたんだけど・・・そっか、違うんだ・・・」
          
          「・・・それより、良いの?」
          
          「?何が?」
          
          「何がって・・・」
          
          ずっと、気になっていたのだが
          彼は、全く気付いていないのか
          きょとん、とした瞳に見つめられ、思わず、返答に詰 まる
          
          「・・・濡れるよ?」
          
          ―――否、もう既に濡れている
          
          『傘をこちらに差しかけてから濡れたものではない』
          
          ―――そう、はっきりとわかるほど
          
          「ああ・・・良いよ、これは」
          
          けれど、彼はこともなげにそう言い放つと
          突然、自分に傘を渡してきた
          
          
          
          一瞬、触れた指先は、驚くほど冷たかった
          
          
          
          そして、彼はそのまま立ち去ろうとした
          
          「・・・っ待って!」
          
          思わず、呼び止めてしまった
          自分でも、わからないうちに
          
          「・・・何?」
          
          彼が、こちらを振り返った
          
          「・・・傘・・・」
          
          いつまでも、自分が持っているわけにもいかないだろ う
          けれど、彼は微笑って、言った
          
          「本当に、良いってば。
          どうせ、使ってないんだし。
          それに・・・」
          
          「?」
          
          とある一定方向を指差した
          つられて、そちらを見る
          
          「あ・・・」
          
          その先には―――・・・
          
          「そのコの為にも、ね?」
          
          「うん・・・」
          
          「じゃあね」
          
          その時、僕は
          去り行く後ろ姿を見ていることしか出来なかった
          
          
          
          その後、とりあえず僕はその猫を連れて家に帰り
          一晩だけ、その猫を泊めることを許された
          
          けれど、その翌日―――・・・
          いつの間にか、猫はいなくなっていた
          淋しさを覚えながらも、いつも通り、登校する
          
          
          
          ―――その後、もう二度とその猫に逢うことはなかっ た
          
          
          
          教室に到着すると
          すぐに、彼は見つかった
          
          昨日は気付かなかったのだが
          実は、自分の後ろの席だったらしい
          朝も早くから、読書中だった
          
          止めておこうかな、と一瞬、思ったが
          このままでは埒が明かないので
          半ば緊張しながらも、話しかける
          
          「あのさ・・・」
          
          「・・・、昨日の。
          羽深くん・・・だよね?」
          
          「うん、えっと・・・あの傘のことなんだけど・・・ 」
          
          「ああ・・・良ければ、貰ってくれる?」
          
          「・・・え?」
          
          傘の話をした途端、
          いきなり、予想外のことを言われてしまった
          けれど、何故か僕は、その時、傘を貰ってしまった
          
          今、思えば。
          何故、貰ってしまったのだろう、と思うけれど
          
          
          
          そして、現在―――
          
          「・・・羽深って」
          
          「うん?」
          
          「何でいつも、その傘使ってるの?」
          
          あの傘を貰って以来
          どういうわけか、ずっと使い続けている
          
          その時の彼―――今、目の前にいる、穂村は
          相変わらず、雨が降っても、傘を差さない
          ・・・理由は、よくわからないけれど
          
          そして、あの時・・・
          僕に傘をくれたことを、忘れている
          
          「ん〜・・・内緒っ」
          
          でも、やっぱり今更、言いにくいから
          これは・・・僕だけの秘密
          
          「あっ・・・」
          
          「?」
          
          「雨、止んだ・・・」
          
          空を仰ぐと、先程まで雨が降っていた空は
          晴れ上がって、綺麗な虹が出ていた
          
          
          
          
          
          ・・・虹の空を見上げながら
          ふと、あの猫のことを思い出した
          
                     

          
          
          あとがき
          淡海築さんキリリク12100HITの穂羽でした
          『雨の日』をテーマに書いてみました
          羽深って、猫に似てるなぁ・・・と、
          唐突に思って書いた話です(笑)
          ハッピーエンド・・・だと、作者は思っています
          
          猫のその後は・・・好きなように想像してみて下さい
          きっと、何処かで元気にしていると思いますが・・・
          
          ちなみに、穂村くんが傘を差さない理由は・・・
          考えてはいたのですが、やっぱりご想像にお任せしま す
          いずれ・・・書くかも知れませんが
          でも、やっぱり書かないかも知れません(爆)
          
          ではでは。よろしければ貰ってやってください>△< ;
          
          


☆管理人からのコメント☆
穂羽!穂羽です穂羽!(飢死寸前)
雨の日の羽深さんは不機嫌そうだなあと思いつつ・・・
猫に似てるなと思いつつ・・・飼い主穂村決定〜!
ありがとうございましたvハッピーエンド大好きですv