6.サン






 この瞳から溢れてくるのは  涙なんかじゃない



   君への想いだから



























目覚めた朝の、まだ少しだけ肌寒い風に吹かれて
ふわり、と白いカーテンが翻る




こし、と瞼に手をやると、眼下がうす紅く腫れて熱を帯びていた

けだるげにカーテンの合間から差し込む光を追いながら
のろのろと身体を起こして手をかざした



そのままジャッと音を立てて勢いよく薄布を引くと
思ったより強く照りつける太陽に 

う、と声を漏らして手の甲で庇を作りながら目を細めた








いつ見ても驚いてしまう、広々とした整った部屋の真ん中に置かれた
グランドピアノのそばにゆったりと腰かけ、

軽く人差し指の先でポーン、と適当にキーを押した


きちんと調律された澄んだ音が静かな部屋に響き渡る



その余韻に耳を傾けながら、頭の片隅で
そうか今日は日曜だったなあ、といまさらのように認識した










「起きたのか?羽深」


いつの間に入ってきたのか、すでに着替えまで済ませたこの部屋の主は
音も立てずに背後に回って声をかけてくる



特に驚いた様子を見せるでもなく、

どうしたんだよ今日は と舌先で告げながら包み込むように腕を回された




くすくす、と笑う声がじかに振動として伝わってきて

なんだか気恥ずかしくなりながら ちょっとね、と呟いた



「お前いつももっと寝ぼすけじゃないか」


「うるさいなー」







表情を崩さずに喉元を震わせ、諭すように言う



もう少し寝てていいよと言外に告げて





そんな様子に、 
 僕だってたまにはね、と悪態をつくように返してから

おずおずと、細く白いピアニストの指先を絡めた




小さく、ぴくりと反応してからぐっと力を込めて握り締める



僕が 痛いよ、と言うと


たまにはいいだろ? なんて笑って見せた




ヒトの体温を感じることの無い冷たい皮膚の表面をさらり、と撫でると


ん?どうした? なんて何事も無かったように余裕の表情を見せる



どうして僕はこんなに逆らえないんだろう


何もかもを見透かされているような気がして 時々目を覆いたくなる







は、と思い出したら無性に悔しくて

白と黒の世界に視線を落としてささやくようにこぼした




「穂村に寝顔見られたなんて不覚だなあ」


「泣き顔も見れたしな」


いまさらだろー? と、悪戯っ子のように口元を浮かせ

背中越しに身を乗り出して顎を上向かされた


自然、覗き込むように見下ろしている二つの切れ長の三日月と目が合う

逸らすこともかなわずにとらえられて動けないまま責めるような冷笑を受け取る


「どうして泣いてたんだ?」


口調は冷静そのものなのに


呼吸をおくこともできずに引き込まれるように硬直した


襲いくる自己嫌悪と、罪悪感





「城戸のことか?」




びくん、とこめかみが引きつるのが自分で解った


「そんなんじゃ・・・」


「わかってても」


強い口調で反論を遮って考え込むように口をつぐんだ


「・・・やっぱり、悔しいもんだな」


数秒後に導かれた答えは言いようのない寂しさを帯びていて


不安な気持ちを煽るかのように語尾を濁した










「でも、手放すつもりは無いから」




視線を宙に投げながら自問自答のように声を落とした




「羽深は、俺からは逃げられないんだろ?」


くす、と自嘲的に笑いながら言葉を紡ぐと
感覚の発達した手を、空気の間を滑らせるように差し伸べた


「せいぜい、その弱みを利用させてもらうよ」

俺って悪い奴だよな と、肩越しに前髪にかかる息は少し水気を含んでいたような気がした
















ガラガラ、と 二人分の重みに耐えられずに連なる不協和音






モノクロの格子にとらわれて




やまない雨の夜を抜け出せずにいた











つかまったのは きっと 僕の方










































































































あとがき
いつもお世話になってるイヨちゃんキリリク穂羽でした。
すみません、羽深くん報われてないです・・・(汗)エセシリアス。
真が穂村の家にお泊り♪なネタ自体はとっても明るいものです。
ちなみに題は「日曜日(Sunday)」から(安直。
前の夜二人が本当に何もしないで寝たのかどうかは謎のままで(笑)