Band-aiD

グウェンダル×ヴォルフラム



          




むずがるように眉を寄せるしぐさに こちらまで眠たくなってきて














咲くことの無い花は散ることすら許されず
雨露に耐えて今尚枝先に首をもたげる



たとえようの無い寂しさとともに遺される境遇


次々と落ちゆく周囲の色鮮やかな花片に何を思うだろう




視界が拓けた床は踏みにじることの出来ない残骸の空間



いっそ自分もあの芸術の中のひとかけらのパーツに、
キャンパスを彩る折々の一部になれたなら














そこまで考えてふとひざの上の重みが増したことに気づく


視線を落とせばまるで完璧な宝石の持つ危うさを象徴したかのような
線の細い蝋細工に限りなく近い 艶めくブロンドと
影を落とすほどの長い睫が目に入る



動揺を態度に表すことなく 僅かに眉間の皺を緩めて、半開きの口を引き締めた



毛布をかけてやりたいが、この体勢では思うように動けない


仕方なくそっとため息をつきながら
ふわりと相手の肩を抱くようにして深緑の軍服で包み込むと、
特有の鼾を立てる形の良い唇から吐息とともに甘えるような声が零れる




これでは夜襲のときなどひとたまりも無いだろう



軍人にあるまじき寝顔に呆れのようなやるせない気持ちを覚えながらも
起こそうなんて無粋なことはどうしてもしようと思えなかった


深い呼吸とともに上下する横隔膜から伝わる熱に
むしろ暖められているのは自分の方だと感じて
奪っているような心もとない罪悪感に肩をすくめる



「コ・・・ンラ・・・ッ」


「・・・!」



寝言で呟かれた名前にはっと目を見開いた


苦痛を伴うめまいのような衝撃が
しかしそれは遠く置き忘れた幻影のような陽だまりに重なって心地よく
とろんと重い瞼を素直に下ろす。




「・・・ん・・・っあにう・・・え・・・」


「?ヴォルフラム・・・」


膝に沈んだ頭がもぞもぞと動く

どちらの兄を呼んでいるのかは判断がつきかねるが
枕となっている膝の持ち主の眠気を醒まさせるには十分だった






ぐずるように顔をしかめて 何かを求めて腕を伸ばす


探り当てた軍服の厚い布地に 白く細い指先で触れると、
安心したように薄く笑った


切りそろえられた桜色の小さな爪が、かちりと硬く摩擦する




「ゅ、ぅ・・・?」



普段抱き枕にしているこの城の主と勘違いしているのだろう

悪戯に頬を紅潮させる相手の額に無意識に手を置く


子供特有の体温が腕を伝って心臓まで流れ込んでくるような錯覚がして
別の箇所からこみ上げる熱を必死に押さえつけた



「・・・ユーリじゃないだろう、ヴォルフラム」



自分でも信じられないくらいの 苛立ちをあらわにした声が
喉の奥、腹の底に沈殿する



さして驚くでもなく むしろ弟が眠っていることに感謝しながら
腕の中の大きさを確かめた



成長の感慨に、焦がれる


それがリスクを孕んだ美しい感情であると同時に
いびつな憎悪と背中合わせであることを確信した



とくとくと正常に血脈の作動する鼓動がじかに耳に入る

実際にはもう少し大きな音で、くしゅ、と鼻を啜るリアルな声がして
ようやく目を擦りながら瞼をこじ開けると
あくびをかみ殺したような複雑な表情を向け、反動でふるっと身震いする



寝起きのためか現状が解せずに
ただぼんやりと焦点のあわないうつろな瞳を
その湖面に浮かぶような淡いブルーに漂わせていた

瞬かせた睫の隙間で虹彩が散る翳った盲班が揺れる


人知れず切れ長のグレー・アイをますます細めて
表情を伺うようにもったいぶった観察眼を投げる



数秒とたたずに状況を理解したのか慌てて後ろに退く相手の後頭部に腕を回して
くい、と軽い力で引き寄せて捉まえた


「すいません・・・兄上・・・あの、ぼくはどれくらい寝て・・・」


「・・・いや、・・・疲れが溜まっているようだな」


平静を装い重々しい口調を保つ。
腕の中に閉じ込めた体温が確かに上昇したのを背中に面した拳から感じ取ると
強く押さえつけすぎたことに気づいた兄は力を緩めた


はっと鋭く息を呑む弟の喉下がびくんと震えて
胸板に耳たぶをくっつけるような体勢で戸惑いながらも寄りかかる


おずおずと背中に腕を回して抱きしめ返すまでにそう時間はかからなかった




「どうかなさったんですか?兄上」


愁いを帯びて怯えたエメラルドグリーンの双眸が揺れると
力なく中身のない虚脱した寝起き特有の鼻にかかった声で様子を伺うように訊ねる




らしくないな、と ぎこちない空気に包まれながら
頭のどこか冷静な部分で分析するようにどちらともなく顔を上げた





「覚えていないのか?」


「何をですか」


「眠っていた間、どんな夢を見ていた」


「・・・・覚えてません」




ひとことひとことは短く、実に正確で正直なやりとりに
心地よい緊張感と同時に満足感を得て
すみません、と恥ずかしそうに俯く弟に

しかたないな、と 言外に告げて

ふたりの間のもう一人の兄弟に似た 肩眉を上げた不謹慎な微笑を零した



「寝言で・・・ぼくは何か言っていましたか」


「ああ」


「・・・・教えてくれますか」


「どうだろうな」



忘れてしまった、という言葉は明らかに真実は無くて
それでも相手を責めるような棘は感じなかったので
少し不可解ながらも 安心したように肩の力を抜いた




「・・・少し、思い出しました」


「言ってみろ」


「コンラートが・・・」


予想通りの弟の名に、今度は、ああ、と素直に頷いて
考えるような素振りを見せつつ続きを瞬きで促した


ゆっくりと薄い唇を開く


「コンラートが、まだ、ぼくたちと、一緒に・・・」


訥々とした文節で区切られた口調は自らの苦悩を表しているかのようで
そこでその先を躊躇するかのように一度言葉を切る



大丈夫だ、 とは言えなかった。


無責任なオブラートは一時的な気休めでしかない

どんな現実よりも重く、そのことを彼は知っていた


同時に夢の続きを自らの手で途絶えさせる

そうすることでしか保てなかった



「もういい」


「・・・はい」



「・・・・・帰ってきたら」


仮定で話すことほどくだらない、ばかばかしい、無意味なことはない

それを誰よりも嫌っていたはずの自分が、
投げやりでなく、ほんの僅かな熱に広がりを出そうと
今必死でもがいてあがいて 出た言葉の語尾にタラレバが付いていた


それだけのこと。


「帰ってきたら、何がしたい」


「コンラートが、ですか?」


「否、」




        三人で。



あの日見た陽だまりの先
























落ち葉の上でひなたぼっこ




見上げた空は高くて   青くて  青くて










君が望むなら何度でも





望まなくとも 一度はきっと











いつかは地に還る生命の僅かな足跡に 穢れを見つけてほっとした





















☆あとがき☆

小話で書いている猫シリーズを少し長めにしたくて書きました。
グウェヴォル。初挑戦でした;;長男のキャラをつかめず一苦労;
築は普段、自分の作品をあとで読み返すことをしないのですが、
今回ばかりは何回か推敲しました。誤字脱字が怖いよう(怯)
小説という形での作品掲載は本当に久しぶりなのでかなり緊張です;
とりあえず、これで字書きをアピールしてみました(苦笑)最近絵ばかり描いていたので;
お題は「応急処置」のような意味だと取っていただければ・・・(無計画!)
それでこんなマイナーCPに踏み込む自分も自分ですが・・・。
特にネタやイベントという訳ではなく日常のヒトコマという場面を書きたいと前から思っていて
リアルに書くにはまだまだ本当ーーっに修行が必要ですが、
「静けさ」の中に落ちた波紋のようなものが消える一瞬前のような切なさを
未熟ながら自分の作品の中で少しでも表せたらいいな、と(何)
築の小説のどこか一文でも、行間でも、「暖かさ」を感じていただけましたら幸いです。