等価交換だというのなら こんなに割りにあわないことなんてない 「・・・何ソレ、大佐」 机を埋め尽くすほどの二つの山を目の前にして ため息とともに思わずクチをついてでた言葉 「・・・それは、どちらに対して言っているのだね?」 ちらちらと卓上を左右交互に見やりながら、 右手を伸ばして また一枚 事務的に書類に目を通し、面倒そうにサインをつづる 「どっちもだよ!どっちも!」 そんな様子にあきれたように吐き捨て、 向かい合って顔を覗き込むように下から軽くにらむと、 大人ぶった余裕の笑みを浮かべて、左手でひょい、と丘の斜面を切り崩す その一部を手首のスナップをきかせてこちらも見ずに投げてよこした 「そんなに食べたかったのなら、素直にそう言いたまえよ」 「そうじゃねえだろ」 ったく、と説教を始めそうになる口をあわててつぐんで 仕事の進み具合を半ば監視しながら 少し小腹がすいてきたのを、いまさらのように思い出して お言葉に甘えることにした 無言でひとつ二つ、舌先に乗せると広がる、甘いとしかいえない独特の味 それを口内で転がして丁寧に味わいながらもごもごと動かした こんなもので満足できるとは思えないけれど。 「これって、手作りじゃん」 「そうかね」 何事もなかったかのように言う静かな口調に苛立ちを覚えて 「なんとも思わねえの?」 「どうして?」 あたかも本当にわからないかのような、純粋な瞳に逆らって 「女の子、かわいそうじゃねえ?」 せっかく作ったのにあんたに食べてもらえなくて、 と言外に告げて 「・・・ほう、君にしてはまともな」 「ごまかすなよ、ホラ」 そんな紙切れなんかより、こっちを見ろよ と手を差し伸べた どこか間の抜けた言いかけた台詞はあえて遮って ただ言いようのないチョコレートの甘さに似た感情に贖いを求めていた 食べてもらえない手料理は、受け取ってもらえない感情を暗示しているように思えて 少しだけ同情したけれど それはずるいとすぐに悟って やめた 「アンタ、そんだけ女はべらせてんならそれくらい解ってそうなのに」 「残念ながらその点には無頓着でね。 それとも、」 この大量の甘菓子を、すべて私が食べろとでも? 糖尿病で殺すつもりかね そう片眉を上げて目で訴えていたけれど 自業自得だろ? と、わざと冷たくあしらって見せた こんな平凡なやりとりにも楽しそうに笑うのだから、 最近の中間管理職にも困ったものだ 「大佐、甘いのキライなの?」 「いや、大歓迎だが。・・・・限度があるだろう。これでも減らしたのだよ」 大方東方司令部の部下にでも配ったのだろう 建物中に、けだるい甘い香りが立ち込めるのはそのためか 無論、この男もいくつかつまんだのだろうが 一向に減りそうにないもう一山を今日中に仕上げない限りは、おちおちティータイムもしていられない それでも、と考える こんなに疲れていても きっとこの男は 町で女性に合ったなら、笑顔で応対したのだろう その結果が現状なのだから、自業自得もここまでくるとはなはだしいが 自然と顔が綻ぶのはなぜだろう どんなに頑張って作っても 受け入れられない物が有る どんなに欲しいと願っても 手に入れられない愛が有る それを自分は知っている ただそれだけのことが こんなにも胸を駆り立てて 「鋼の、」 おもむろに立ち上がり、口を開く 「なんだよ、まだ仕事終わってねえだろ」 ようやく何束かにまとめられた書類を横目に、弾む声を抑えて返すと まあ少しくらいいいじゃないか と、笑顔で答える その顔に弱いんだよ と、内心で思いながら 平静を装って後に続いた 「少し外へ出ないか?」 「・・・・嫌だね」 「おやおや、厳しいのだね」 「うるせえな。今日くらい、せっかく二人きりなんだからわざわざ外でなくてもいいだろ」 それとも何か不満でも? と窓の外の浮かれた雰囲気を尻目に睨みつける まいったね と、休憩だけは見逃して 男二人でまずい茶を飲みながら山を崩してほおばる この特別な日のこの時間も紛れもなく自分のものであることに満足しながら 何も贈っていない自分が 全てを尽くした彼女達よりも得る物の多い優越感に身を浸す ねえ 俺が愛した分だけ あんたも俺のこと愛してよ それが世界の法則だというのなら 裏ヒントB「錬金術師」の英語でのスペルを逆さにする スペル(アルファベットつづり)が判らない方はは和英辞典で自分で調べてください。 家に和英辞典のない方のみこのページの最下部をご覧下さい あとがき 人気投票一位エドロイでバレンタインでした! 甘甘を目指しました・・・が・・・・(沈没) お持ち帰りはご自由にどうぞ!感想など頂けると嬉しいです |
|||