幸せって なんだろうね 「・・・え?」 声に出したつもりは無かったのに。 ふとした僕の呟きに、驚いたように顔を上げた 読んでいた雑誌を丁寧に閉じて傍らに置くと、 ベッドにあお向けて寝転んだままの姿勢の僕の傍まで歩き、 顔を覗き込むようにしてから、すとんと枕元に座って見下ろしてきた 「急にどうした?羽深」 穏やかに微笑みながらさらさらと指先で器用に前髪をなでる くすぐったくて目を細めると、手の動きを止めて何も言わずにぺち、と軽く頬に触れた 「べつに・・・なんでもないよ」 子ども扱いが嬉しいような悔しいような複雑な気分になって ふてくされたように目をそらすと、 あ・なんだよー と、さも楽しそうに笑いながら視線を追ってくる 「羽深、俺といてもつまんない?」 表情は変えずに、声のトーンだけ少し低い 二人きりの空間には、本当にいつもの勉強机と、 乱雑に、それでも一応気を使って端にまとめられたCDケースが少し雪崩を起こしていて ベッドで二人分のささやき声と浅い吐息がやけに響く 「そんなことないよ」 日常の、学校帰りに決まって僕の家に寄って この部屋に通す もうすっかり定位置になってしまったお気に入りのブルーのクッションの脇で、 バスケ雑誌を読むのを横目で見ながら、たわいも無い会話を楽しむ 確かに、決して盛り上がってるわけではないけれど 安定して、落ち着けるひととき しかも今日は帰りにクレープをおごってもらって、ご機嫌なんだから 退屈だ、なんて思ったことも無い 「なんでそんなこと聞くのさ」 もしかして穂村のほうが退屈なんじゃないの?と少しだけ疑いながら恐る恐る問い返す 困ったように苦笑しながらなんにも言わずに僕の後ろ髪を束ねていたゴムをするりとはずした 「いや、お前らしくないなと思って」 ふわりとおろされた毛先に切りそろえた爪を絡めて 指の間ですきながら 告げる言葉が優しい はぐらかされたような気がしてむーっと顔をしかめると もう しょうがないなー 、と 言葉を濁した かなわないなあとつくづく思ってあきらめたように背を向けると ぐっと肩をつかまれた 抱き寄せられて、危なくバランスを崩し、よろよろともたれかかる 胸元に額をこつん、とつけるとあたたかかった 「俺は今、幸せだけど 羽深は違うの?」 耳元にかかる息と、より密着する身体にぞくっと背を丸めると ああ・ごめん、かわいいなあ と角度を変えながら 聞き捨てならない台詞が降ってくるのはあえて無視して 幸せだけど、ちがう と告げた もてあそぶように後頭部をぽんぽんと叩いていた手の動きが急にぱた、と止まり 不思議そうに目を見開いて、きょとんとした表情を作る 「どういう意味?」 ストレートにたずねられると かえって意地になって腕を回した 「・・・だってさ」 いまが しあわせだと 穂村が帰った後 さびしいから その声は震えていて 恥ずかしそうに目を伏せたまつげの影の落ちる頬はうっすらと赤く色づいていた 「・・・ははっ」 「〜〜笑うなっ!」 しばらくぽかんと口を開けていたけれど こらえきれずにふきだした もういいよ、と耳まで赤く染まったのを隠しながら 起き上がろうとするのをひじをつかまえて制止した わざと意地悪くじろじろと眺めると、 なんだよぉ と情けなく眉を寄せてちらっと睨む くくく、とこぼれる笑い声を押し殺しながらのどを鳴らすと 寄り添うようにベッドの空いたスペースに横になって 天井を見上げると思いついたようにぽつりと呟く 「今日、泊まっていってもいいか?」 ぱっと目線を上げて出方を伺う 「ほんと?」 「ああ」 「・・・・っ成二に言ってくる」 あわただしく身を起こす手を下からくいっと引いて 契約のしるしのようにその手の甲の小さな小指の根元にそっと唇を落とした 動揺を悟られないように平静を装いながら いってくるよ、と忙しく部屋を飛び出したけれど 中から ははっ と相変わらずの笑い声が漏れていて やっぱりかなわないな と肩をすくめた 戻ってくると、さっき読んでた雑誌の棚が、びしっと整っていて 一瞬面食らったけれど、僕は迷わず口にした 「ただいま」 君が傍にいることが 僕の幸せの条件 あとがき 初!ふぁいとの暁小説ですvマイナーですが愛ゆえにvv 羽深真受けがマイブームな私です。中でも一押し穂羽vv ヘタレな真ですが、ずーっと愛でていくつもりです 穂村は動かしやすかったです(これも愛!) 「ゆびきり」は穂村が羽深の指に王子様キスするところから 金持ちだけにキザな行動も様になります穂村サン。 でも私が書くと微妙だったり・・・ 二月のオウミノ苦手克服月間のさきがけとして苦手な甘甘にトライして見事玉砕しました; 可愛い羽深を目指しました。目指すだけならタダです(謎) |
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