1.「手」




薄く灰色がかった雲が広がる空を見上げ、
法衣をまとった青年は、その 人のよさそうな顔の表現を少しくもらせた。

「雨が降りそうですな」
何気なく口にした独り言のような呟きも
重い雲に吸い込まれそうに消えていった。

そのすぐ後ろでうつむいてぼんやりと座っていた少女は、
はっとして 顔を上げた。

それに気が付いた法師は、
おや?という感じに片眉を少し上げ、
少女と視線を合わせる。

コホン、と小さく咳払いをひとつして
どこを見るともなく、また空へ目をやった

「珊瑚は―・・・雨は嫌いか?」

珊瑚、と呼ばれた少女はぴくんと反応し、
おずおずと一歩前へ出て、法師の横に並び、
同じようにどこか不可解そうな面持ちで、真上を仰いだ。

「嫌いじゃ、ないけど」
珊瑚は表情を変えずに言葉をこぼした

法師は へえ、と小さく声を上げ
意外そうに自分より少し低い背に 目線を落とす。

「見方によっては、だけどね」

「ほう。」

気の無いやりとりに 視線は変えずに目を細め
逆に、問い返す。

「法師さまは?」
「・・・私は」

いささか不機嫌そうに頭をたれ、続ける

「私は、 そうですね。気がめいります」

「・・・どうして」

思うままに、言葉を次ぐ。

「一般論じゃないですか。
 こんな重苦しい 乱れた空を見上げて、心が晴れるとは思えません」

さも当然のように 穏やかに笑ってみせる

つられて珊瑚もぎこちなく口の端を上げる

どことなくかみ合わない会話に、不自然に口を開けた。

「でも・・・でもさ、法師さま」
決まり悪そうにくるりと背を向けた法師は、
むすっとした感じで頬を右手の人差し指で コリ、と掻いた

それから、はあっとため息とも取れないかすれた音を発し、
すとん、と脚から外に落ち、
まだいまいち状況が掴めてない珊瑚に、
顔はまだ下に向けたまま、
手のひらを上にむけて スッと腕を伸ばした

「お前もこちらに来ませんか?」
そう言って

きょとんとしたまま、珊瑚は二、三度目をぱちぱちさせ、
薄く笑って そっと手を取った

外はとても寒く、息は白く上気し、 消えた

指先は冷たく、互いに包まれた感覚だけを頼りに
庭の中をゆっくりと二人で歩いた

―老夫婦みたいだ、と
どちらともなく思ったけれど、
そんな自分の想像に一人苦笑し、相手の顔を覗き込むと

今度はふたりで、笑ってしまった

三十分ほど後、
もう寒いから、部屋に戻ろう、と
法師は珊瑚の手を引いた

珊瑚は 少しだけ残念そうに庭をぐるりと見回してから
コクン、と小さくうなづいた

笑みを返して、一歩踏み出したとき
珊瑚は、口にした

「雨じゃないかもしれないよ」

法師は、不思議そうに振り返る。
珊瑚は無表情のまま、ふと思い出したように呟いた

「曇ってるからって、次にくるのが雨とは限らない
 ・・・雪かも、知れないよ?」

だってそう考えた方が楽しいだろ?

と、悪戯っぽく微笑んだ


二人の通ってきた道に、
ぽた、と小さな白いかたまりが
地面にしみを残して、 消えた




































あとがき。。
5678HITライチ様のリクエスト「弥勒×珊瑚の甘甘小説」でした。
33のお題、1「手」を利用して書かせていただきました。
テーマに沿ってない気もしますが・・・;
こんなものでよろしかったらお持ち帰り下さい><
兼用するつもりは無かったのですが、
私の中ではジャストヒットだったため、お題の方でもupさせていただきました;
いずれネタが浮かんだらもうひとつupしようと思います